カフェオーナーが危惧する「コーヒー2050年問題」の脅威、生産量が半分に?

カフェオーナーが危惧する「コーヒー2050年問題」の脅威、生産量が半分に?

Photo:PIXTA((c)diamond)

Source : Yahoo Japan | Author : 石山俊太郎 |Date : 02/18/2022


朝起きて、お湯を沸かしてポタポタとコーヒーを入れる人もいれば、お店でコーヒーを注文して飲む人もいる。普段何気なく飲んでいる1杯のコーヒー。コロナを機にお家でコーヒーを入れて飲む人も増えたのではないだろうか。最近では、「コーヒー価格の高騰」といったニュースを目にすることも増えている。1杯のコーヒーが手元に届くまで意外と多くの人や物が関わっており、日本の裏側ともつながっている。コーヒーには、地球規模のあらゆる課題が含まれており、それを知るだけでも、普段の何気ない1杯が心を満たす1杯に変わるかもしれない。(BUCKLE COFFEEオーナー 石山俊太郎)

● 生産地・消費地両方に要因が コーヒー価格高騰の2つの理由

コーヒーの生産地は、赤道を挟んで北緯25度から南緯25度の帯状に広がっており、ブラジルやグアテマラのような中南米、インドネシアやパプア・ニューギニアといったアジア・オセアニア、エチオピアやルワンダなどがあるアフリカと、幅広い地域で生産されている。この赤道に沿った帯状の生産地一体は、世界では「コーヒーベルト」と呼ばれている。私が代表を務めるBUCKLE COFFEEの名前の由来は、ベルトのバックル(金具)からきている。このコーヒーベルト(生産地)と消費者をつなぐ強い結い目(バックル)になりたい。そんな思いから名付けた。今回の記事も、生産地と皆さんの結い目の一助となればと思い、書いている。

話が少しそれたが、昨今コーヒー価格が高騰している要因には、生産地での高騰要因と、消費地での高騰要因がある。私の住んでいた東南アジアに位置する島国の東ティモールでの今期の事例では、加工代金(脱穀や豆の選別など)の高騰や、コーヒー資材(麻袋・グレインプロバッグ※)価格の高騰、燃料価格の高騰により日本までのコンテナ運送量も約2倍になるなどの影響が出ている。これらが、原材料の価格を押し上げるのだ。

消費地では、エスプレッソマシンをはじめとする機械の値段がここ数年上がり続けているだけでなく、人件費・光熱費・地代家賃・梱包材・資材の値段も上がっている。これらは、われわれが購入する1杯のコーヒーや焙煎豆の価格に関与してくる。例えば、2019年に約200万円だった人気イタリア製エスプレッソマシンが、21年には同機種で約235万円にまで上がっている(一部は円安の関係もある)。

また、コーヒー豆は世界的に消費が増えている傾向がある。高品質なコーヒー豆に至っては、日本の企業が買い負けをするといった事態も出てきている。お茶を飲む文化が根強い中国では、ここ数年でコーヒーを飲む文化が根付いてきていることもあり、コーヒー買い付け時の存在感が高まってきている。それ以外にも、コーヒー生産量世界上位4カ国のブラジル、ベトナム、コロンビア、インドネシアの国々でも、2015年と2020年の消費量を比較すると、約5~20%増えている (全日本コーヒー協会調査データより比較)。このように、中国や生産地での世界的なコーヒー消費量が拡大している一方で、実はコーヒーの栽培適地が減少することが予測されている。 ※グレインプロバッグとは虫の侵入やカビ、酸化から穀物を守るために使用される袋。麻袋の内袋として高品質コーヒー生豆に使用されることが多い。

● 「コーヒー2050年問題」が現実味 サスティナビリティーに黄色信号が…

ここ数年、さまざまな分野で「サスティナビリティー」(持続可能性)といった単語を目にする機会が増えている。コーヒーの世界も例外ではない。私は、コーヒー分野でのサスティナビリティーについて、15年後も30年後もおいしいコーヒーを飲むために、持続的にコーヒー栽培ができるよう、今考え行動しなければならないと認識している。

コーヒーの世界では、コーヒーの生産地について、「環境的サスティナビリティー」と「経済的サスティナビリティー」の2つの側面から議論されることが多い。今回は、環境的サスティナビリティーの側面から述べたいと思う。

WCR(World Coffee Research)※の2017年の年次報告書によると、現在世界中のコーヒーを生産している土地の中で、「現在のコーヒー生産量のほぼ半分(47%)を、2050年までにコーヒーの生産に適した土地の60%以上が失われると予測されるブラジル、インド、ニカラグアをはじめとする大生産国が占める。比較的幸運ともいえる、その損失が最も少ないと予測される国でも、生産に適した土地の最大30%が失われると予測されている」といった報告がある。この予測は、「気温の上昇」や「湿度の上昇」、「降雨量の減少」など、さまざまな変化をもとになされている。これは「コーヒー2050年問題」と呼ばれている。

これ以外にも、生産工程の中で生じる環境・社会問題なども注視されている。例えば、コーヒーの実をむき洗い、発酵する工程で生じた排水には高濃度のメタンガスが含まれる。果皮を捨てることで、河川土壌汚染や温室効果ガスによる地球温暖化につながってしまう。また、その廃棄物が、世界的にも重要な感染症として有名なマラリアの温床となることもある。近年では、これらの問題に目を背けるのではなく、おのおののできることで寄与していく動きが活発になっている。

※WCR(World Coffee Research)とは、高品質のコーヒーの栽培・保護とその供給拡大、およびコーヒー生産者家族の生計の向上を目的として、2012年にコーヒー業界によって設立された研究機関。

● 捨てていた部分がスーパーフードに コーヒー生産者の取り組みが秘める可能性

例えば、東ティモールでは、コーヒーの苗床を作る際に使用するビニール製のポットを、バナナの葉を使用したポットへ変更することで環境負荷を減らす取り組みを行っている。他国では、廃棄物となる果皮の部分を使用した紅茶やシロップ、殻を乾燥させて使用したコーヒーフラワー(小麦粉の代用品または併用品)が出てき始めている。このコーヒーフラワーを使用したクッキーやシフォンケーキを作るお店も、今後増えていくかもしれない。

廃棄物を堆肥化して畑に利用したり、バイオ燃料や飼料へと再利用したりしている企業もある。また、コーヒーを入れた後の粕を廃棄せず、繊維製品やプラスチックなどに練り込んで服やカップなどを作るといった取り組みもある。

われわれも東京都にあるアートスクールスタジオパパパ(株式会社フォーアースリングス)と一緒にコーヒー粕から「スクールで使用する絵の具や粘土を作れないか」といった取り組みを始めたばかりだ。実はこれは、ゴミを減らすことが目的の一つではあるものの、素材の持つ機能性を有しているといった本質的な側面も持ち合わせている。

今まで捨てられていたコーヒーの果皮には食物繊維や鉄分、カリウムなどの栄養価が高く、ポリフェノールが含まれることも魅力で、スーパーフードとしての注目を集め始めている。海外では、コーヒー粕の消臭効果に着目し、繊維に練り込むことで消臭・速乾・紫外線カット・体感温度の低下などを実現したといわれているアップサイクル素材が誕生している。

● 日本ならではのコーヒーの飲み方は 実は環境配慮型?

日本では、三角錐の形をした器具を使用した「ハンドドリップ」という手法で、ポタポタと1杯ずつ抽出するドリップコーヒーが主流だ。このドリップコーヒーを簡易的にしたものが、「ドリップバッグ」という紙・不織布で作られた小分け包装のコーヒーである。日本全国、さまざまなお店に置かれており、愛用している人も多いのではないだろうか。

一方、他国ではプラスチックカプセルをマシンにセットして、1杯ずつ抽出する方法が主流だ。この小さなカプセル容器でも、全体では莫大なプラスチックゴミとなる。その半面、ドリップバッグは、抽出後包装の袋以外はそのまま燃えるゴミとして捨てられるので環境負荷が低い。そのため、アメリカでドリップバッグが注目され始めている。2020年には、ドリップバッグを専門に扱う企業がアメリカのナスダック市場で上場を果たしている。

日本の反対側に位置する生産地に思いをはせながら、明日も1滴1滴コーヒーを入れていこうと思う。

 
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